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懐かしいあの人も登場!『青空と逃げる』(辻村深月)

私が唯一単行本を買うのが、辻村深月さん。先日『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞されていましたね。

単行本を買うほど好きなのに、日々の忙しさに追われ、新作が出ていることにまったく気が付いていませんでした。それがこれ。『青空と逃げる』です。2015年から2016年の読売新聞夕刊の連載をまとめたものになります。

 

青空と逃げる (単行本)

青空と逃げる (単行本)

 

 

深夜の交通事故から幕を開けた、家族の危機。母と息子は東京から逃げることを決めた――。辻村深月が贈る、一家の再生の物語。

有名女優との不倫報道後、突然父が失踪。マスコミから逃げるように見知らぬ土地で過ごす早苗と息子の力(ちから)の親子が主人公です。
最初は学生時代の友人、聖子を頼って四万十へ。つい先月、偶然私も高知の四万十に行ったので、そこでの風景や空気が目の前にあるような気がして、最初から「わぉ!」とびっくり。知っている土地や行ったことのある土地が小説で描かれると、やっぱり嬉しいですよね。中村駅にくろしお鉄道、アンパンマン列車。(結局、力はアンパンマン列車には乗れず…いつか乗れるかな??)

四万十を離れてからは、家島、別府、仙台と日本各地へ。

 

この本のおすすめポイントを挙げるとすれば3つ。

一つは、「旅行に行きたくなる」ということ。各地のご飯や景色の描写がある分、特に別府は行ったことがないので、「もくもくの湯けむりに包まれたい!」「湯治したい!」という気分に。

もう一つは、2013年刊行『島はぼくらと』で重要な登場人物のあの人が出てくるところ。辻村作品では度々、別の作品に登場した人物がちらっと再登場するので、その懐かしさや、もう一度元の作品を読み直したくなります。

もう一つは、各地で会う登場人物の暖かさ。いつも主要な登場人物よりも、ちらっとしか描かれないような人に魅力を感じることが多いのですが、今回もまさにそれ。四万十であの青年に会ってみたいなあとか、別府であの湯治のおじいちゃんとサツマイモ食べたいなあ、砂かけしてほしいなあとか。ほっこり&こんな大人になりたい、そんな人が盛りだくさんです。

 

ただ!ただ残念だなぁと思うところは、他の読書感想サイトでも多く書かれているように、「なぜそこまで恐怖を感じながら逃げるのか、が分からない」というところ。
報道された有名女優の事務所がたとえ「怖いお兄さん」がいっぱいだったとしても、犯罪を犯した訳でもないのに、なぜ逃げるのか、なぜ自分の親に頼らず見知らぬ土地ばかり転々とするのか・・・なんでしょう。割と最初の方からの違和感があって、最後までそれはスッキリしませんでした。

前作、かがみの孤城よりは、ハラハラする場面もありながら、母(早苗)の不安や迷走を横目に、短期間で内面的にぐんぐん成長していく息子(力)の 、成長物語として楽しむならアリ…かな?という感じです。

 

他にこの作品を読まれた方いらっしゃったら、ぜひ感想を教えてください。