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本や映画、舞台の感想をつらつら書いています

『探偵が早すぎる(上・下)』(井上 真偽)

探偵が出てくる話と言えば、普通のお話なら「すでに起こった事件のトリックを見破って犯人を見つける」ところですが、今回はそうではなくて「探偵が起こりそうな事件を未然に防ぐために犯人のトリックを見破る」のが面白いところ。

ミステリー小説は最近あまり読んでませんでしたが、本屋さんで表紙の絵とタイトルに惹かれて読んでみました。

探偵が早すぎる (上) (講談社タイガ)

探偵が早すぎる (上) (講談社タイガ)

 
探偵が早すぎる (下) (講談社タイガ)

探偵が早すぎる (下) (講談社タイガ)

 

 主人公は、父の死によって莫大な遺産を相続した女子高生の一華(いちか)。

その遺産を狙って大陀羅家(だいだら)一族が一華を事故に見せかけ殺害しようと試みて・・・というお話。父は愛人との間の子ども、ということで大陀羅家では隠し子の存在。

「お父さんのものをあの人たちに渡したくない」「お母さんが過労でなくなったのもあの人たちのせい」という思いで、「国を一年守れる」くらいの遺産をどう守るのか。

そこで使用人の橋田が雇ったのが探偵の千曲川光。

刺客の計画した悪事をそのまま意趣返しを果たすのも読んでいてお見事!スッキリ!という感じで、一華の天然&前向きな明るさと対比する橋田の冷静さ、大陀羅一族のクセの強さと、全部が全部面白く、上下巻するするっと読めてしまいました。

 

7月からはドラマ化もされるそうです!びっくり。
探偵の千曲川滝藤賢一さん。一華が広瀬アリスさん。本の中だと千曲川はもっと若いイメージなんだけど・・・こちらも楽しみにしていたいと思います。ぜったい観る!!

www.ytv.co.jp

『さよならのためだけに』(我孫子武丸)

つい先日、twitterの趣味アカウントというのを始めました。
twitterを公開して使うことにドキドキしていたんですが、同じ趣味の人と繋がれるのはやっぱり楽しいし、読書は特に自分が普段目にしないものを見る機会になって幅が広がったような気がします。

 

さて。今回読んだのは『さよならのためだけに』(我孫子武丸

さよならのためだけに【徳間文庫】

さよならのためだけに【徳間文庫】

 

 少子晩婚化が進む中、結婚仲介業のPM社の相性判断で結婚相手を選ぶ世界。最高評価の「特A」でマッチングしたカップルの離婚率は0%というけれど、ハネムーンから帰ってきた水元と妻の月(ルナ)は離婚を決意して…というお話。

 

これまで大昔から続いてきた「男女が結婚するための道のり」ではなくて「離婚するための共闘」がテーマな所がもうすでに面白いし、マッチングによる結婚が義務ではなくて、普通に恋愛して結婚する人も少数ながら存在しているところが「この先こんな世界になる可能性があるのかも・・・」と思わされて、色々考えながら読み進めました。

 

夫の水元は両親がPMのマッチングで結婚した第二世代、月は両親が普通に恋愛をして結婚したこのお話の中では「普通ではない方」の子ども。水元はPMの社員として、相性判断を全面的に信頼していて、一方の月は冷静に捉えて分析して相性判断を全面的には信頼していない。
結婚するってつまりどういうことなんだろうか、遺伝子レベルで相性がいいと判断されれば万事OKなのか、結婚の本質を考えながら、PM社との対決の場面では特に目新しい驚きの展開はないものの話の着地点も納得。対決の部分が長いから、あっさりしたまとめにびっくりみたいな所もありつつ。

結論としては「自分でよく考えろ」「相性判断なんかに甘えるな」ということかな・・・

 

つい先日、演劇集団キャラメルボックスの「無伴奏ソナタ」を観てきたばかりで、
そのお話の設定は「子どもの頃の能力診断で仕事が強制的に決められる世界」でした。この本との共通点は「幸せとはなにか」「人が決めたこと(法律や相性判断など)に無条件に乗っかることがいいのか」というところでしょうか。
もしこの本をすでに読んでいたら、ぜひ無伴奏ソナタも観てみてください。

懐かしいあの人も登場!『青空と逃げる』(辻村深月)

私が唯一単行本を買うのが、辻村深月さん。先日『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞されていましたね。

単行本を買うほど好きなのに、日々の忙しさに追われ、新作が出ていることにまったく気が付いていませんでした。それがこれ。『青空と逃げる』です。2015年から2016年の読売新聞夕刊の連載をまとめたものになります。

 

青空と逃げる (単行本)

青空と逃げる (単行本)

 

 

深夜の交通事故から幕を開けた、家族の危機。母と息子は東京から逃げることを決めた――。辻村深月が贈る、一家の再生の物語。

有名女優との不倫報道後、突然父が失踪。マスコミから逃げるように見知らぬ土地で過ごす早苗と息子の力(ちから)の親子が主人公です。
最初は学生時代の友人、聖子を頼って四万十へ。つい先月、偶然私も高知の四万十に行ったので、そこでの風景や空気が目の前にあるような気がして、最初から「わぉ!」とびっくり。知っている土地や行ったことのある土地が小説で描かれると、やっぱり嬉しいですよね。中村駅にくろしお鉄道、アンパンマン列車。(結局、力はアンパンマン列車には乗れず…いつか乗れるかな??)

四万十を離れてからは、家島、別府、仙台と日本各地へ。

 

この本のおすすめポイントを挙げるとすれば3つ。

一つは、「旅行に行きたくなる」ということ。各地のご飯や景色の描写がある分、特に別府は行ったことがないので、「もくもくの湯けむりに包まれたい!」「湯治したい!」という気分に。

もう一つは、2013年刊行『島はぼくらと』で重要な登場人物のあの人が出てくるところ。辻村作品では度々、別の作品に登場した人物がちらっと再登場するので、その懐かしさや、もう一度元の作品を読み直したくなります。

もう一つは、各地で会う登場人物の暖かさ。いつも主要な登場人物よりも、ちらっとしか描かれないような人に魅力を感じることが多いのですが、今回もまさにそれ。四万十であの青年に会ってみたいなあとか、別府であの湯治のおじいちゃんとサツマイモ食べたいなあ、砂かけしてほしいなあとか。ほっこり&こんな大人になりたい、そんな人が盛りだくさんです。

 

ただ!ただ残念だなぁと思うところは、他の読書感想サイトでも多く書かれているように、「なぜそこまで恐怖を感じながら逃げるのか、が分からない」というところ。
報道された有名女優の事務所がたとえ「怖いお兄さん」がいっぱいだったとしても、犯罪を犯した訳でもないのに、なぜ逃げるのか、なぜ自分の親に頼らず見知らぬ土地ばかり転々とするのか・・・なんでしょう。割と最初の方からの違和感があって、最後までそれはスッキリしませんでした。

前作、かがみの孤城よりは、ハラハラする場面もありながら、母(早苗)の不安や迷走を横目に、短期間で内面的にぐんぐん成長していく息子(力)の 、成長物語として楽しむならアリ…かな?という感じです。

 

他にこの作品を読まれた方いらっしゃったら、ぜひ感想を教えてください。